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ダイヤモンドの「資産価値」概念の再考

  • takuya-ito6
  • 11月14日
  • 読了時間: 4分
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はじめに


天然ダイヤモンドについて依然として「天然ダイヤモンドには資産価値がある」という説明が行われることがあります。この表現は一定の説得力をもって受け入れられる一方、その意味内容や前提条件は必ずしも明確ではありません。


ラボグロウンダイヤモンド(以下、LGD)の普及が進む現在、ジュエリーを購入する消費者も、より合理的・透明性の高い情報を求める傾向が強まっています。そのような中、業界では、天然・ラボを対立構造ではなく、正確な構造理解の上で評価する姿勢が求められています。


本記事では、特定の立場に偏ることなく、「資産価値」概念を商品設計・市場構造・消費者損益という三つの視点から整理し直すことを目的としています。


1. 資産価値商品とは何か:定義の再確認


「資産価値がある商品」とは、一般に以下の条件を満たすものとされています。


  1. 価値保存を目的に設計されていること(設計思想)

─ 例:金地金、資産用コイン、特定規格のダイヤモンド裸石など

  1. 市場価格と連動する透明な評価基準が存在すること(価格透明性)

  2. 換金市場が整備されていること(流動性)


この3要素のうち、とりわけ重要なのは「①設計思想」と「②価格基準」です。③の換金性はあくまで『副次的要素』であり、これ単体で資産価値商品を名乗ることは難しいです。


2. 天然ダイヤモンドの「換金性」と『資産価値』の混同


天然ダイヤモンドには、100年以上にわたり形成された国際流通市場が存在し、Rapaportをはじめとする評価基準も確立しています。この歴史が「換金性」を支えていることは疑いのない事実です。


しかし、換金できることと、資産価値商品であることは別概念です。

中古時計、ブランドバッグ、中古車なども換金性は高いですが、資産価値商品として扱われることはありません。天然ダイヤモンドも同様に、「換金性がある宝飾品」として評価することが適切であると思われます。


3. 一般的なダイヤモンドジュエリーは、資産価値商品として設計されていない


店頭で販売されるダイヤモンドの多くは、以下の理由により資産価値商品としての条件を満たしていません。


  1. 資産用の品質規格を満たさないケースが多い

資産用ダイヤモンドは一般に、D–F / VVS–VS / 1ct以上 / GIAが目安とされます。しかし、店頭商品はより幅広い品質帯を扱うため、標準化された資産設計とは言えません。

  1. 小売価格が市場相場と連動していない

ブランド料、デザイン料、店舗運営費が反映され、小売価格は市場価格から大きく乖離します。

  1. 二次流通時は「裸石の再評価」に戻るため、価値保存が成立しにくい


これらの構造から、多くの天然ダイヤモンドジュエリーは「価値保存を目的とした商品設計」ではなく、「ジュエリーとしてのデザイン価値」を中心に構成された商品であることがわかります。


4. 消費者損益の観点から見た実質的な価値


以下は、一般的な市場価格を例にした数値比較であり、特定企業を指すものではありません。


天然ダイヤモンド例(1ctリング)

・購入価格:1,000,000円

・売却価格:300,000円

・実質損失:−700,000円

*売却後は商品が手元に残らない


ラボグロウンダイヤモンド例(1ctリング)

・購入価格:200,000円

・売却は前提としない(仮に0円としても)

・実質損失:−200,000円

*商品は手元に残る


「売れる・売れない」という議論から一旦距離を置き、最終的に消費者が負担する損失額で比較すると、天然ダイヤモンドの方が消耗が大きいという結果になります。この比較は、天然とラボの優劣を論じるものではなく、「ジュエリーとして販売される天然ダイヤモンドは資産価値商品の要件を満たしていない」という構造的事実を示しています。


5. 天然ダイヤモンドの価値は“宝飾品価値”が中心


天然ダイヤモンドには、長い歴史、文化的背景、美的価値、象徴価値があり、宝飾文化の中で独自の存在感を持ちます。ただし、その価値は本来「宝飾品としての価値」であり、『資産価値』とは異なる領域で形成されています。


『天然の価値 × 宝飾品としての魅力』と『資産価値商品としての価値保存性』は混合してはなりません。


6. LGD普及期に求められる業界の姿勢


ラボグロウンダイヤモンドの普及が進む現在、業界としては以下の姿勢が求められると考えます。

・天然・ラボ双方の価値を正しく説明すること

・消費者に対して『資産価値』という言葉を使用する際の慎重さ

・宝飾品としての魅力と、価値保存の概念を分けて伝えること

・透明性ある情報提供による、業界全体の信頼性向上

当協会としても、LGDの普及だけを目的とするのではなく、宝飾市場全体の正しい構造理解と透明性向上に貢献する姿勢が重要であると考えます。


おわりに


天然ダイヤモンドは「換金性を持つ宝飾品」であり、ラボグロウンダイヤモンドは「合理的価格で楽しめる宝飾品」です。両者は本来、優劣の問題ではなく、価値の性質と商品設計の違いによって存在意義が分かれています。


この記事が、協会会員の皆様が顧客説明・商品企画・販売戦略を考える上での一助となれば幸いです。

 
 
 

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