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ラボグロウンの呼称をめぐる動き

  • takuya-ito6
  • 10月1日
  • 読了時間: 5分
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ここ最近、ジュエリー業界において「ラボラトリーグロウンダイヤモンド(以下、ラボグロウンダイヤモンド)」をめぐる呼称の扱いが再び注目を集めています。国際的な業界団体であるCIBJO(世界ジュエリー連盟)は、今年10月末にパリで開催される総会において、「ラボラトリーグロウンダイヤモンド」という呼称を「合成ダイヤモンド」と表記する方向性について議題に上げる予定とされています。


この動きは「名称の統一」「透明性の確保」といった意義を持ちつつも、すでに広く浸透している呼称を改めることで生じる混乱や影響は大きく、私たちが真剣に考えるべき論点となります。

 

ラボグロウンダイヤモンドは、研究室で高度な技術により生成されたダイヤモンドであり、化学的・物理的・光学的な特性は天然ダイヤモンドと同一です。両者の違いは生成過程にあり、天然は地中で長い年月を経て形成されるのに対し、ラボグロウンは人工的な環境で数週間から数か月かけて育成されます。すなわち、商品の本質は「どのように生まれたか」にあるといえます。そのため、呼称をどう定義するかよりも、それぞれのカテゴリーの商品が持つ特徴や魅力をいかに消費者に正しく伝えるかが重要であると考えられます。

 

名称を「合成ダイヤモンド」に変更することには、いくつかの課題があります。まず、業界におけるコストの発生です。カタログや販売資料、広告、鑑定書の表記など、多くの場面で「ラボグロウンダイヤモンド」という名称が使用されており、これを一斉に変更するには相応の調整が必要になります。さらに、消費者にとっても学習コストが生じます。英語圏では「Lab-Grown Diamond」、中国語圏ではラボグロウンダイヤモンドに相当する中国語である「实验室培育钻石」という表現が一般的に認知され、日本においても「ラボグロウンダイヤモンド」という呼称が定着しつつあります。こうした中で「合成ダイヤモンド」という言葉に切り替えた場合、消費者は「以前の呼び方と同じものか」「模造石と混同してよいのか」といった疑問を抱く可能性があり、一定の混乱が懸念されます。

 

特に「合成」という言葉は、一般消費者にとって必ずしもわかりやすい表現ではありません。「合成」という語が持つ日常的なイメージを考えると、この懸念は理解しやすいものです。例えば「合成皮革」は「本革ではない人工素材」、「合成樹脂」は「天然樹脂ではない人工物」、「合成香料」は「天然の香りではない人工香料」、といった具合です。これらの事例に共通するのは、「合成」という言葉が「天然・本物の代用品」「模造されたもの」といったニュアンスを強く帯びる点です。そのため「合成ダイヤモンド」という名称を使用した場合、キュービックジルコニアやモアサナイトなど、ダイヤモンド以外の類似石と混同される恐れがあります。

 

また、市場の一部業者は依然としてこれらの類似石に対して「合成ダイヤ」「人工ダイヤ」と表記して販売しているケースも散見され、その結果、透明性の低下や誤販売のリスクが懸念されます。名称を「合成」に戻すことは、こうした混乱を助長しかねず、業界全体としての信頼性を損なう危険すらあります。(実際、当初「ラボラトリーグロウンダイヤモンド」の名称が採用された背景はこのような混乱への懸念であったはずです)

 

ラボグロウンダイヤモンドは、従来の天然ダイヤモンド市場を脅かす存在ではありません。全体的に見ればラボグロウンダイヤモンドは「天然ダイヤモンドを買わなかったであろう層」を新たにジュエリー市場に取り込んでいる側面が強いと考えられます。手の届く価格帯で高品質なダイヤモンドジュエリーを提供することにより、消費者層を拡大し、結果としてジュエリー業界全体の市場規模を広げている可能性が高いのです。

 

一方で天然ダイヤモンドには「地球の歴史を体現する唯一無二の存在」という物語性や、産地・希少性に裏打ちされた文化的価値が存在します。それらは決してラボグロウンダイヤモンドでは代替できないものであり、この価値を改めて消費者に伝える必要があります。ラボグロウン、天然共に現代の消費者の価値観に合わせた新たな啓蒙活動が必要とされているのです。

 

結局のところ、真に重要なのは名称そのものではありません。ラボグロウンであれ天然であれ、それぞれの商品が持つ魅力や価値を、誠実かつ明確に消費者へ伝えることこそが肝要です。消費者にとって最大の利益は、正確で透明性のある情報に基づき、自らの価値観やライフスタイルに適した選択ができることです。名称を巡る後ろ向きの議論は、業界全体の発展に資するどころか、むしろ消費者の信頼を失わせる可能性があります。

 

また、もう一点懸念されるのは米国市場をはじめとする国際的な規制枠組みとの整合性です。米国連邦取引委員会(FTC)はジュエリーガイドラインにおいて、消費者に誤解を与えない呼称として「lab-grown」「laboratory-created」「[メーカー名]-created」といった表記を推奨しており、「synthetic(合成)」という表現の使用を必須とはしていません。FTCはむしろ「synthetic」という言葉が、消費者に「模造石」や「ガラス製の模倣品」といった誤解を与える可能性を指摘しており、用語選択には慎重さが求められています。

 

結局のところ、名称をどう定義するかは一つの手段に過ぎません。また、名称が何になったところで、確立された技術であるラボグロウンダイヤモンドが市場から消えるわけではありません。

 

消費者が求めるのは、わかりやすさと安心感であり、透明性の高い情報提供です。名称よりも優先されるべきは、消費者の利益を第一に考え、双方の価値を正しく伝えることです。ラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドの双方が健全に共存し、多様な選択肢を提供できる市場環境を整えることこそ、ジュエリー業界の持続的発展に不可欠ではないでしょうか。


協会としては、名称をめぐる後ろ向きな議論に終始するのではなく、透明性と正確な情報を基盤に、ラボグロウンと天然の双方が持つ価値を消費者に正しく伝えることを第一義と考えております。消費者が自らの価値観に基づき、安心して選択できる市場こそが、持続的で健全なジュエリー業界を築く土台となるとの信念に基づき、今後も業界の健全な発展のため、ラボグロウンダイヤモンドの正しい理解と普及に努めてまいります。

 
 
 

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