最近のLGD業界動向と見解の共有
- takuya-ito6
- 6月27日
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昨今、ラボラトリーグロウンダイヤモンド(以下、LGD)業界において、いくつかの重要な動向が相次いで発表され、当協会にも多数のご照会を頂いております。つきましては、以下に現時点での業界の状況と各発表に関する当協会の見解を取りまとめ、ご報告申し上げます。
■ デビアス社「LIGHTBOX」ブランドの終了について
2024年5月、デビアス社は自社のLGDジュエリーブランド「LIGHTBOX」を段階的に終了する方針を公表いたしました。
「LIGHTBOX」は2018年に発表されたもので、デビアスがLGD市場に本格参入する契機となりました。当時、この動きはジュエリー業界全体に強いインパクトを与え、LGDが一定の市場的地位を獲得するうえで象徴的な出来事とされました。
一方で、デビアスの戦略的意図は、LGDと天然ダイヤモンドとの価格差を強調することにより、LGDを安価な代替品として明確に位置づけ、市場に対してその違いを印象付けることにあったと広く認識されています。実際、「LIGHTBOX」の1カラット(GH VS相当)の小売価格は当時800ドルに設定されており、当時のLGDの卸価格よりも明確に低く設定されていました。
近年では、LGDの供給増加に加え、中国市場を中心とした天然ダイヤモンド需要の大幅な減退という二重の圧力により、デビアスの収益は著しく低下しています。これを受けて、親会社であるアングロアメリカン社は、デビアスの事業売却または株式公開による撤退を検討していると報じられていますが、現状の財務状況では実現が困難であるとの見方もあります。
このような状況を背景に、デビアスは事業の合理化および天然ダイヤモンド事業への集中というブランド再構築の必要性に迫られていたと考えられます。LGDの生産コストが年々低下し、天然ダイヤモンドの価格構造とは乖離しつつある現在、「LIGHTBOX」は当初の目的を果たしたものと位置づけられ、戦略的撤退に至ったと推察されます。
実際、同社CEOのアル・クック氏は「天然ダイヤモンドとLGDの違いを明確に提示するという目的は達成された」とコメントしており、ブランド終了が商業的および戦略的判断であることを示唆しています。
■ GIAによるグレーディングポリシーの変更について
GIA(米国宝石学会)は、LGDに関するグレーディングレポートの基準変更を発表し、今後は品質を「Premium」「Standard」の2段階に分類し、いずれにも該当しない品質の石についてはグレーディングを行わない方針を打ち出しました。この分類は、カラー、クラリティ、フィニッシュの各評価軸の組み合わせによって決定されるとされています。
GIAはこの変更の背景として、現在市場に流通するLGDの約95%が極めて狭い品質範囲に集中しており、天然ダイヤモンドと同一の評価基準を適用することが適切ではないとの見解を示しています。
なお、GIAにおけるLGDの取扱方針の変更は今回が初めてではありません。2019年以前には「Synthetic Diamond」という表記が用いられ、カラーグレードも「Color equivalent to G–H」のような独自の方式が採用されていました。2019年には表記を「Laboratory Grown Diamond」に改め、天然ダイヤモンドと同様の4Cグレーディングを導入。さらに2023年にはプロット図などを含む新しい詳細なフォーマットに移行しています。
このような一連の変遷からは、GIA内部における議論の多様性、また業界外部からの商業的圧力が存在していたことが推察されます。
GIAは天然ダイヤモンドのレポート発行において世界シェアの過半数を占めている一方、LGDに関しては発行シェアが約5%にとどまっており、IGIなど他機関が優位性を持つ状況です。これには、他機関が2019年以前から天然と同等の4C基準を採用していたこと、価格面での優位性、そして世界各地に支社が多く発行が容易であることが影響しています。
GIAによる今回のグレーディング基準の簡素化は、コスト削減を目的とする商業的判断、ならびに採算性の低いLGD分野からの部分的な撤退によって天然ダイヤモンド部門への集中を強化するという経営方針に基づくものと考えられます。
■ HRD AntwerpによるLGDグレーディング停止の発表
ベルギー・アントワープを拠点とするHRD Antwerpは、2026年よりLGDのグレーディングレポートの発行を終了する方針を発表しました。なお、製品レポートについては引き続き発行を継続する予定です。
HRDはAWDC(Antwerp World Diamond Centre)の子会社であり、AWDCは世界最大規模の天然ダイヤモンド取引ハブとしてアントワープの地位を支えてきた業界団体です。同団体は天然ダイヤモンド取引の中心地としての存在感を再強化する戦略を掲げており、今回のHRDの方針もその一環と位置づけられます。
HRDのLGD鑑定書発行における世界シェアは1%未満と推定されており、グレーディング業務からの撤退は経営判断として合理性のあるものと考えられます。
■ 今後のLGD市場への影響と展望
GIAおよびHRDの鑑定書発行における世界シェアが限定的であることを踏まえると、今回の発表が市場に与える影響は全体としては軽微であると予測されます。
現時点において、LGDの鑑定書発行における90%以上のシェアを有しているIGIは、当協会からの確認に対し、「従来どおり天然ダイヤモンドと同様の4C基準を維持し、正確かつ透明性のある情報を今後も提供し続ける」と明言しており、現在のところ方針に変更はございません。
LGDは物理的・化学的に天然ダイヤモンドと同一の素材であり、同様の基準での評価が技術的に可能である以上、消費者にとっても天然ダイヤモンドと同様の評価基準が必要とされています。特に日本のような高品質志向の市場においては、DカラーとEカラーのような微細な違いであっても、消費者はその情報を重視する傾向にあります。
販売現場でも天然ダイヤモンドと同様の4C基準が採用されている事実は、消費者がLGDの品質を客観的に判断する指標として同一基準を必要としていることを示しており、この需要は今後も継続すると見込まれます。
市場は供給者主体ではなく、消費者の信頼と納得を前提として形成されるものであり、共通の評価基準が引き続き必要とされる可能性は極めて高いと考えられます。
今後求められるのは、「天然」と「ラボグロウン」のいずれが優れているかという二元論ではなく、もちろん用語の議論でもなく、それぞれの価値と魅力を的確に伝えること、そしてそれを求める消費者に対して明瞭かつ信頼性のある情報を提供する姿勢であると、当協会は考えております。
今後とも当協会では、業界の健全な発展と市場の透明性確保に努め、引き続き会員の皆様への情報提供と支援を行ってまいります。ご質問やご意見等がございましたら、どうぞお気軽に事務局までご連絡ください。
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