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ラボグロウンダイヤモンドの価値とは何か?



世の中のほぼ全ての人が、ダイヤモンドとは希少で美しく、そして永遠に変化しないものだと知っています。しかし、ラボグロウンダイヤモンドがマーケットに登場して以降、ダイヤモンドに対する概念の一部は変化しています。米国の連邦取引委員会(FTC)は2018年に「ダイヤモンドは、本質的に等尺性結晶化した純粋な炭素からなる鉱物である」と定義し、そこに製造プロセスの要件はないと宣言しました。2020年に始まったパンデミック以降、世界経済や国際情勢は変改していますが、ダイヤモンドマーケットも大幅に変化しています。


しかし、ラボグロウンダイヤモンドは依然として物議を醸す製品であり、「ラボグロウンダイヤモンドの価値」は常に議論の対象となっています。ラボグロウンダイヤモンドの支持者と反対者は、それぞれの異なる利益や考えのために戦いを繰り返しており、また同じ陣営内でも異なる意見を持つ人がいるため、消費者にとっては混乱を引き起こすことがあります。


最近、ある海外メディアで「Are lab-grown diamonds even better than the real thing?(ラボグロウンダイヤモンドは本物よりも優れているのか?)」と題した記事が掲載されました。


LVMHはイスラエルのラボグロウンダイヤモンド企業に多額の出資をしていることでも有名ですが、フレッド、プラダなど最近では多くのラグジュアリーブランドがラボグロウンダイヤモンドの分野に参入してきています。しかし、今までの低価格を戦略としていたラボグロウンダイヤモンドブランドとは異なり、彼らのラボグロウンダイヤモンド戦略は「独自のブランド文化やデザイン性にラボグロウンダイヤモンドを融合させ、ダイヤモンド、ブランド、そして業界の価値を創造すること」です。


この記事の中で筆者は2つの疑問を提起しています。


・天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドが区別できないものだとして、なぜ天然ダイヤモンドが本質的にラボグロウンダイヤモンドよりも優れていると考えられるのだろうか?


・(業界の観点から)これらを区別するのは価格的要因だけだろうか?


これら2つの問題は、ダイヤモンド業界が直面しているジレンマとも言えます。ナチュラル ダイヤモンドカウンシル(NDC)は、ラボグロウンダイヤモンドを、安価で製造された天然ダイヤモンドの質の悪い代替品として表現してきており、天然ダイヤモンドは「何億年もかけて自然によって作られたもので本質的に価値があり、希少で貴重」であると高らかに宣言している。後者の定義に異議を唱える人はいないが、天然ダイヤモンドの固有の価値と希少性については疑問が生じている。と筆者は述べています。


ダイヤモンドの希少性に関して、実際ダイヤモンドは最も一般的な宝石の1つで、現在のダイヤモンド埋蔵量は約13億カラットと推定されています。 (その総数のほぼ半分がロシアにあると考えられます。)天然ダイヤモンドが枯渇しつつあるという噂には根拠がなく、新しい採掘プロジェクトでは、2025年に約1.73億カラットが生成されると想定されています。


価値に関してはサイズや品質が異なるため他の宝石と明確に比較することは困難ですが、1カラットのダイヤモンドに関して言えばルビー、エメラルド、サファイアよりも低くなる可能性があります。しかし、ダイヤモンドが人気を得てきた理由は(その高価な)価格のためだけではなく、ある種のロマンスが刷り込まれてきたためです。つまり、長年に渡り形成されてきた概念がダイヤモンドの価値を高めてきたということです。


ダイヤモンドは長い間『愛』と結びつけられてきました。永遠の誓いの証として婚約者にダイヤモンドの婚約指輪を贈るのは伝統的な習慣ですが、これはダイヤモンドが永遠だからです。しかし、この習慣が一般的になったのは20世紀に入ってからで、大恐慌によるダイヤモンド価格の暴落への対処として1938年にデビアスが開始したマーケティングキャンペーンがスタートでした。10年後の1947年に、デビアスは有名な「A Diamond is Forever - ダイヤモンドは永遠」というスローガンを考案し、結婚を申し込むときにダイヤモンドの指輪を贈るという現代の習慣が生まれました。


このキャンペーンが高価的であったことは、1939年から1979年の期間で米国のダイヤモンド売上が2,300万ドルから21億ドルに増加したことが証明しています。マリリン・モンローの有名な「ダイヤモンドは女の子の親友」から「給与の3か月ルール」まで、デビアスがこれらすべてのマーケティングを先導しました。


ドキュメンタリー映画『Nothing Lasts Forever』の中でデビアスのスティーブン・ルシエは、自社がこうした文化的規範を確立する上で主要な役割を担ったことを認めながらも、単にそれはストーリーテリングが優れていたからだと述べています。「人々に本当にメッセージを受け取って欲しいのであれば、記憶に残る方法でそれを伝える必要がある。」と彼は述べました。製品の需要を生み出すことは良いビジネスですが、その需要がロマンスや、何十億年もかけて成長した宝石という概念によって形成されているのであれば、人工的に成長した安価な製品でその「おとぎ話」を汚したくないと思うのは当然のことだと筆者は指摘しています。


これは、ある分野でラボグロウンダイヤモンドが天然ダイヤモンドと競合することが難しい理由の1つです。ラボグロウンダイヤモンドは、天然ダイヤモンドと比べて歴史的および文化的な概念が不足しているため、現在、天然ダイヤモンドと同じ影響力を持つことは困難です。


しかし、一部の分野では世界の概念や価値観が変化しつつあります。「地中に埋もれたダイヤモンドを見つける、このように表現すると魔法のように聞こえるかもしれません。しかし現代の消費者は採掘の現実をよく知っています。社会的および環境的コストを考えると、それほどファンタジー的な見方はしません。ブラッドダイヤモンド、劣悪な労働条件、貧困の連鎖、地面に巨大な穴を掘ることによる環境への影響などの物語はすべて、金銭的価値に対抗する倫理的価値の問題を引き起こします。突然、炭素が宝石へ変換するという話ではなく、二酸化炭素排出量に関する話題が重要視されるようになります。この文脈において、ラボグロウンダイヤモンドはもはや安価で魅力に欠ける代替品ではなく、増大する懸念に対する解決策になります。」と筆者は述べます。


もちろん、これは筆者が考える消費者の概念の変化であり、現代の天然ダイヤモンド業界は環境保護と持続可能な開発という点において最大限の努力を継続しています。一方でポイントは、一般的な消費者にとってラボグロウンダイヤモンドの価値は単に安価であるということを超越する場合があるということです。


なぜそのようなことが起こるのか、シンプルに言えばそれが消費者の需要だからです。現在ブライダル市場のターゲットとなるミレニアル世代とZ世代は従来のダイヤモンドから離れつつあります。米国のマーケティング会社MVIのリサーチによると、70% 近くの消費者が婚約指輪用にラボグロウンダイヤモンドの購入を検討しており、その数字はその後5年間で増加し続けています。


この若い消費者層は、天然ダイヤモンドにもっとお金をかけるべきだという議論にはあまり興味を示さず、価格、環境負荷、透明性といった理由に対して納得感を持っています。ラボグロウンダイヤモンドは「ロマンチック」ではないかもしれませんが、文字通り「実験室で成長したもの」なので少なくとも不透明性はないからです。


筆者はトレーサビリティの重要性の逆転についても指摘しました。かつて天然ダイヤモンド業界のトレーサビリティは「天然ダイヤモンドにラボグロウンダイヤモンドが混入されていない」ことの証明を目的としていましたが、現在では天然ダイヤモンドの起源についての透明性への懸念が市場に存在しているため、天然ダイヤモンドのトレーサビリティの重要性の理由は別の方向へシフトしています。


「ラグジュアリーの世界が何年にもわたる摩擦の末に突然ラボグロウンダイヤモンドに傾いているのかを本当に理解したいのであれば、簡単な説明がある。それは、市場がその方向に向かっているということだ。アントワープ・ワールド・ダイヤモンド・センター(AWDC)のレポートによると、国際ダイヤモンド市場のラボグロウンダイヤモンドカテゴリは15%~20%増加していると推定されており、その一員になりたいと思うのは当然のことだ。」と筆者は述べます。


一方でパンドラはアクセサリー企業であり、プラダはファッションブランドのため、これが「ジュエリー」なのか「アクセサリー」なのかについての議論が存在するかもしれませんが、多くのブランドがラボグロウンダイヤモンドを受け入れ始めているのは否定できない事実です。


もちろん、ラボグロウンダイヤモンドは人工的に作られたダイヤモンドであり、一部では「合成」と表現されることもありますが、決して偽物のダイヤモンドではありません。もしこれが偽物であればLVMHによるラボグロウン企業への多額の投資は大きな戦略的ミスとなり、グループのジュエリーブランドであるフレッドにとってもラボグロウンダイヤモンド製品の発売は汚点になることになります。


天然ダイヤモンド業界はラボグロウンダイヤモンド業界に対して、その多くの電力消費によって温室効果ガスを排出していると指摘しています。一部のラボグロウンダイヤモンド企業ではカーボンキャプチャーなどを利用し大気中の温室効果ガスをダイヤモンドに変換していると主張し、この分野での議論は止まることを知りません。


筆者は記事の最後に「Too good to be true(本物と信じられないほど優れている)」という言葉を使用し、ラボグロウンダイヤモンドが非常に優れた製品であると述べました。


この筆者の主張は主観的要素が強くあり、ラボグロウンダイヤモンド側に立った意見が多く見られるため、ラボグロウンダイヤモンドをビジネスとして取り入れる上では冷静で広い視野が必要です。また米国市場をベースにしているため日本市場においては国内市場の状況を分析する必要があるでしょう。


いずれにしても最近の大手ブランドによるラボグロウンダイヤモンドの採用は、以前のような天然ダイヤモンドとの対立構造を超越したところにあり、これは今後のラボグロウンダイヤモンドの方向性を考える上で大きな参考になるでしょう。ラボグロウンダイヤモンドの価値はそれぞれのブランドの戦略の中で生み出されるものですが、その戦略のためにはダイヤモンド自体への深い理解が必要になるでしょう。

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