ラボラトリーグロウンダイヤモンドの名称をめぐる国際的な議論について

― 現在の状況と、日本市場への影響の整理 ―
最近、ラボラトリーグロウンダイヤモンドの「名称」をめぐる国際的な議論が活発になっています。
2026年9月にイタリア・ヴィチェンツァで開催されたCIBJO(世界ジュエリー連盟)総会において、人工的に製造されたダイヤモンドなどについて、CIBJOのBlue Book上では「synthetic」を基本的な名称として使用する方針が決定されたことが、国内外の業界メディアでも大きく報じられました。
こうした状況の中、「今後ラボラトリーグロウンダイヤモンドという名称が使えなくなるのではないか」「日本でも合成ダイヤモンドという名称を使用しなければならなくなるのか」と不安を感じるかもしれません。
しかし、今回の決定については、その意味と影響を正確に理解することが重要です。
結論から言えば、今回のCIBJOの決定によって、現時点で日本国内で「ラボラトリーグロウンダイヤモンド」という名称の使用が直ちに禁止されたり、すべての事業者に「合成ダイヤモンド」という名称の使用が法的に強制されたりするものではありません。
CIBJOが決定したのは「国際的な業界標準としての推奨」
CIBJOは、世界のジュエリー、宝石、貴金属関連団体などが参加する国際的な業界組織であり、Diamond Blue Bookをはじめとする各種ガイドラインを通じて、宝石業界における名称や取引上の基準を示しています。
今回CIBJO理事会が承認したのは、天然に存在する宝石と同じ化学組成、物理的性質、結晶構造を持ちながら人工的に製造されたものについて、Blue Book上では「synthetic」を基本的な表現とするという考え方です。
一方で、CIBJO自身も今回の発表の中で、「laboratory-grown」や「laboratory-created」が一部の法域で認められている消費者向けの表現であることを認めています。また、各国・地域の法律や規則が存在する場合には、それらがCIBJOのガイドラインより優先されることも明確にしています。
したがって、CIBJOのBlue Bookは国際的に重要な業界基準ではありますが、それ自体が各国の法律と同じ強制力を持つものではありません。
今回の決定を「世界中でラボラトリーグロウンダイヤモンドという名称が禁止された」と理解することは正確ではありません。
なぜCIBJOは「synthetic」を選択したのか
CIBJO側の主張にも、一定の合理性があります。
CIBJO Diamond Commissionは、宝石学や材料科学における名称をできるだけ統一し、天然石と人工的に製造された石を明確に区別することが、消費者保護につながると考えています。
例えば、人工的に製造されたルビーやサファイアについては従来から「synthetic ruby」「synthetic sapphire」という表現が広く使用されてきました。同じ考え方をダイヤモンドにも適用し、宝石の種類によって異なる名称体系を使用するよりも、「synthetic」という一つの科学的な分類に統一した方が分かりやすいという考え方です。
また、天然ダイヤモンド業界では、天然ダイヤモンドとラボラトリーグロウンダイヤモンドの市場が急速に拡大・分化する中で、両者の違いを消費者に明確に伝えることを以前にも増して重要視しています。
これは天然ダイヤモンド業界とラボラトリーグロウンダイヤモンド業界のどちらが正しい、という単純な問題ではありません。
天然由来の商品と人工的に製造された商品を明確に区別し、消費者が理解した上で選択できる市場をつくることについては、双方に共通する重要な課題です。
「名称は消費者に理解されてこそ意味がある」
今回のCIBJOの決定に対しては、国際的なダイヤモンド業界の中からも異なる意見が出ています。
CIBJO内部のLaboratory-Grown Diamond Committeeからは、「laboratory-grown」を引き続き使用可能な名称として残すことが提案されていました。
その背景には、すでに米国をはじめとする多くの市場で「laboratory-grown」「lab-grown」という名称が広く消費者に認知されている現実があります。CIBJO自身も、米国とインドでは「lab-grown」「laboratory-grown」が使用される一方、フランスやロシアなどでは「synthetic」が使用されており、市場によって状況が異なることを認めています。
さらに今回の決定後、世界ダイヤモンド取引所連盟(WFDB)のMehul Shah会長も、名称については各国政府や市場がそれぞれの言語に合わせて判断すべきだという考えを示しました。
同氏は、最も重要なのは特定の英単語を世界共通で使用することではなく、それぞれの国の消費者が、その商品が天然ダイヤモンドなのか人工的に製造されたダイヤモンドなのかを正しく理解できることだと指摘しています。
これは日本市場を考えるうえでも非常に重要な視点です。
英語の「synthetic」と日本語の「合成」
名称をめぐる議論で注意しなければならないのは、英語の単語をそのまま各国語に置き換えれば、同じ意味や印象になるわけではないという点です。
日本語では「synthetic diamond」は一般的に「合成ダイヤモンド」と訳されます。
宝石学上、「合成」は天然と同一またはほぼ同一の化学的・物理的特性や結晶構造を持つ人工生産物を表す専門用語であり、「模造品」を意味するものではありません。
しかし一般消費者にとって「合成」という言葉は、「合成写真」「合成皮革」「合成樹脂」などさまざまな商品で使われていることから、場合によっては「代用品」「偽物に近いもの」といった印象を持たれる可能性があります。
一方、「ラボラトリーグロウンダイヤモンド」という名称も、それだけで製造方法や天然との違いがすべての消費者に理解されるとは限りません。
したがって、本当に重要なのはどちらか一つの言葉を選ぶことだけではなく、名称とともに「天然ではなく、人工的な環境で製造されたダイヤモンドである」という事実を分かりやすく説明することだと当協会は考えています。
日本の現状
日本国内の状況についても整理しておく必要があります。
一般社団法人日本ジュエリー協会(JJA)は、2024年に「合成ダイヤモンドの呼称・表記および刻印に関するガイドライン」を改訂し、英語表記について「synthetic diamond」「laboratory-grown diamond」「laboratory-created diamond」のいずれも使用できるものとしています。
つまり日本市場においても、名称についてはこれまでも国際的な動向を踏まえながら調整が行われてきました。
今後、CIBJOのBlue Book改訂を受けて国内の業界基準がどのように議論されるかについては、引き続き注視する必要があります。
しかし少なくとも現時点では、今回のCIBJOの決定のみを理由として、会員企業の皆様が商品名、ウェブサイト、広告、店頭表示などを急いで変更しなければならない状況ではありません。
当協会のスタンス
日本ラボラトリーグロウンダイヤモンド協会は、今回の名称問題について、国際的なラボラトリーグロウンダイヤモンド関連組織であるLGDC(Lab Grown Diamond Council)などと連携し、CIBJOに対して意見を伝えてきました。
私たちが重要視しているのは、単純に「syntheticという言葉に反対する」ということではありません。
名称の目的は、業界内部の分類を統一することだけではなく、最終的には消費者に商品を正しく理解していただくことにあります。
そのためには、それぞれの国の言語、文化、既存の消費者認知、市場環境を考慮する必要があるというのが当協会の基本的な考え方です。
今回、WFDB会長からも同様に、各国の言語で消費者が理解できる表示を重視すべきとの意見が示されたことは、今後の国際的な議論において重要な動きだと考えています。
「天然か、ラボラトリーグロウンか」を明確に伝えること
名称をめぐる議論は今後も続く可能性があります。
しかし、会員の皆様に最も重視していただきたい基本原則は変わりません。
販売する商品が天然ダイヤモンドなのか、ラボラトリーグロウンダイヤモンドなのかを明確にし、消費者が両者を誤認しないよう適切な説明を行うことです。
天然ダイヤモンドとラボラトリーグロウンダイヤモンドは、それぞれ異なる背景、価値、価格、市場を持つ商品です。
どちらか一方の価値を否定するのではなく、それぞれの特徴を正しく伝えた上で、消費者自身が自分の価値観や予算、用途に合わせて選択できる環境をつくることが、ジュエリー業界全体の信頼につながると考えています。
名称はそのための「手段」であり、名称そのものが目的ではありません。
現時点での対応について
今回のCIBJOの決定は、国際ジュエリー業界にとって重要な動きであり、当協会としても今後のBlue Bookの具体的な改訂内容、各国の対応、国内業界団体や鑑定機関の動向などを引き続き確認してまいります。
一方で、今回の決定によって日本国内で直ちに「ラボラトリーグロウンダイヤモンド」の名称が使用できなくなったわけではありません。断片的な報道だけで判断して表示や販売方法を急いで変更する必要はありません。
当協会では今後も国内外の関係組織と情報交換を続け、日本市場に影響する重要な変更があった場合には、できるだけ早く会員の皆様に正確な情報をお伝えしてまいります。
名称がどのように変化したとしても、当協会のスタンスは一貫しています。
正確な情報提供と透明性を通じて消費者から信頼され、天然ダイヤモンドを含むさまざまな選択肢の中から、安心してラボラトリーグロウンダイヤモンドを選んでいただける市場をつくること。
日本ラボラトリーグロウンダイヤモンド協会は、今後もそのための情報発信と市場環境の整備に取り組んでまいります。



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