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BriteCo 2025年レポートを読む:米国市場で進むラボグロウンダイヤモンドの主流化と、天然ダイヤモンドとの新たな棲み分け

  • 2 日前
  • 読了時間: 10分

米国のジュエリー保険企業であるBriteCoが最新の2025年レポートを公開しました。 これは、米国のダイヤモンドジュエリー市場において、ラボグロウンダイヤモンド(LGD)がこの5年間でどのように拡大し、天然ダイヤモンドとの関係をどう変えたかを、同社の保険・査定関連データをもとに整理したものです。結論からいえば、LGDはもはや周辺的な選択肢ではなく、米国ではエンゲージメントリング市場を中心に完全に主流カテゴリの一角を占める存在になっています。レポートでは、価格低下、購買層の若年化、大粒化・高品質化、シェイプの多様化、非ブライダル用途の拡大など、複数の変化が同時進行していることが示されています。


このレポートは米国市場の実態を扱ったものであり、日本市場にそのまま当てはめることはできません。ただし、米国はLGDの商業化が最も進んだ市場の一つであり、今後の日本市場を考えるうえでも示唆が大きい内容です。特に、「LGDが何を代替し、どこで新しい需要を生み、天然がどのように再定義されるのか」という問いに対して、実務的なヒントを多く含んでいます。なお、BriteCoはジュエリー保険を専門とする保険代理店で、2019年以降に全米で数十万件規模の保険契約を扱ってきたと説明しており、本レポートはその査定・保険関連の独自データを基礎にしています。


LGDは米国で「ニッチ」から「主流」へ移行


レポートの中核となるのは、市場シェアの急拡大です。BriteCoによれば、2019年時点では、ダイヤモンドジュエリー全体に占めるLGD中心商品の比率は5.2%に過ぎませんでした。エンゲージメントリングに限っても、センターストーンがLGDである比率は6.3%、エンゲージメントリング以外のダイヤモンドジュエリーでは2.5%にとどまっていました。ところが2025年時点では、ダイヤモンドジュエリー全体の42.1%、エンゲージメントリングの47.7%、その他ジュエリーの22.4%がLGD主体になったとされています。BriteCoは、2019年からの相対的な市場シェア成長率を709.6%と表現しています。


特に重要なのは、米国のエンゲージメントリング市場でLGDがすでに“例外”ではなくなっている点です。レポート冒頭では、2024年時点で米国のエンゲージメントリング購入の45%をLGDが占めたと整理しており、これは市場構造の変化として非常に大きな意味を持ちます。従来、婚約指輪は天然ダイヤモンド需要の中核でしたが、その中心市場でLGDがここまで浸透したことは、単なる新素材の普及ではなく、消費者の価値判断基準そのものが変化したことを示しています。


最大の変化は価格


BriteCoレポートが示す最も明快な変化は、価格差の拡大です。エンゲージメントリングにおける1カラット当たりコストの比較として、2019年にはLGDが天然より26.6%安かったのに対し、2025年には72.8%安くなったと示しています。つまり、LGDの優位性は単に存在するだけでなく、この数年で急激に拡大したということです。しかもレポートでは、石が大きくなるほど天然との価格差も大きくなると指摘しており、このことが後述する大粒化トレンドを強く後押ししています。


その結果として、エンゲージメントリング全体の平均販売価格も下がりました。BriteCoによれば、平均価格は2021年の約6,000ドルから、2024年には5,200ドルへ低下しています。これは、LGDが単独で伸びたというより、LGDの普及が市場の価格帯構成を変えた結果と理解するのが適切です。消費者は同じ予算でより大きく、より良質な石を選べるようになり、結果として平均単価の構造そのものが組み替えられたのです。


なぜここまで広がったのか


レポートは、LGD拡大の背景を単一要因ではなく、複数の力が重なった結果として説明しています。第一は製造効率の向上と供給拡大です。HPHTやCVD技術の成熟により、2015年頃までに天然と同等水準の品質を持つLGDの量産が現実化し、その後、中国とインドを中心とする供給増加が価格下落を加速させたと整理されています。技術進歩と供給増が同時に進んだことが、市場の転換点になりました。


第二は世代交代です。BriteCoは、ミレニアル世代とZ世代がLGD受容の先頭に立っていると述べています。ミレニアル世代ではエンゲージメントリング販売が天然とLGDでほぼ拮抗し、Z世代では購入者の3分の2がLGDを選んでいるとされます。さらに、すべての年齢層でLGDシェアが二桁または三桁成長したとも報告されており、若年層主導で始まった変化が市場全体へ波及していることがわかります。


第三はマクロ環境です。レポートは、コロナ禍以降のインフレと金価格上昇が、LGDへの追い風になったと指摘しています。家計にとって可処分予算が圧迫されるなかで、より低価格なLGDが魅力を増し、さらに地金価格の上昇によってリング全体の予算管理が難しくなると、消費者はダイヤモンド部分でコスト調整を図りやすくなります。LGDの普及は、単なる価値観の変化だけでなく、インフレ下の実務的な選択でもあったわけです。


消費者は「安い石」を買っているのではなく、「より大きく、より良い石」を買っている


このレポートで特に重要なのは、LGDの普及が単純な節約志向では説明されていない点です。BriteCoは、消費者が安く済ませているというより、予算内で「買い上がっている」とみています。象徴的なのがセンターストーンの大粒化で、LGDエンゲージメントリングの平均センターダイヤモンドは、2019年の1.31ctから2025年には2.45ctへと大きく伸びたとされています。消費者は、価格低下で浮いた予算をそのまま節約するのではなく、より大きな見栄えや高いスペックに振り向けているのです。


品質面でも同様の傾向が見られます。レポートでは、2020年にはLGD販売のうち無色系(D-F)が37.7%だったのに対し、2025年には85.9%へ上昇したと示されています。クラリティでもより高品質な構成比の変化が示されており、LGDの価格低下が「より上のグレードを選べる」ことにつながっていると読み取れます。これは、LGDが低価格品の代名詞としてではなく、「予算効率の高い高スペック商材」として受容されていることを意味します。


エンゲージメントリングのスタイル変化


LGDの普及は、価格や素材選択だけでなく、デザインにも影響を及ぼしています。BriteCoは、LGDの低価格化と供給安定によって、エンゲージメントリングのシェイプ選好がラウンド一辺倒から多様化していると説明しています。2025年のLGDシェイプ構成では、オーバルが27.3%で首位、ラウンドが24.3%で続き、ラディアント、エメラルド、クッションなども一定の存在感を持っています。以前なら価格面で選びづらかったデザイン性の高いシェイプが、LGDによって現実的な選択肢になったといえます。


また、ブライダル偏重だったLGD需要が、非ブライダル分野へ広がっていることも注目点です。2020年には、エンゲージメントリングとマリッジ関連を含むブライダルがLGD商品の69.5%を占めていましたが、2025年には60.2%へ低下しました。一方で、テニスブレスレットは2020年の3.5%から2025年には11.9%へ拡大し、市場シェアは240%増加したとされます。LGDは婚約指輪の代替材料にとどまらず、日常使いのダイヤモンドジュエリー需要を押し広げる装置になりつつあります。


小売は利益構造の組み替えを進める


レポートが実務的に興味深いのは、小売側の対応にも踏み込んでいる点です。ダイヤモンドジュエリーの価格は大きく「石」と「枠」に分かれますが、LGDの価格が下がることで、従来のマージン構造は維持しづらくなります。BriteCoは、こうした環境下で小売業者がより高品位な地金枠を販売する方向に動いていると指摘します。具体的には、エンゲージメントリングで14Kセッティングの比率が2020年の76.5%から2025年には62.6%に低下し、18Kセッティングの比率は同期間に52.5%増えたとしています。


これは、LGDによって石の原価が下がる一方で、ジュエラーが付加価値の源泉を枠やデザイン、仕立て、体験設計へ移していることを示しています。言い換えれば、LGDの普及は単にダイヤモンドの置換を促しただけではなく、ジュエリー全体の収益設計を変えています。日本市場でも今後、石のスペック訴求だけでなく、枠の完成度、デザイン独自性、ブランド体験、アフターサービスまで含めた総合提案力がより重要になる可能性があります。


BriteCoが示す今後の予測


レポート後半では、今後の市場についていくつかの予測が示されています。第一に、LGDのブランド差別化は曖昧になり、コモディティ化が進む可能性があるという見方です。BriteCoは、LGD業界が「天然と同じ“本物のダイヤモンド”」というメッセージを強く打ち出してきた一方で、大量供給によって価格が急落している現実があり、その結果として消費者には「急速に価値が下がる商材」と映る恐れがあると述べています。さらに、GIAが2025年後半からLGDに対して従来の天然用カラー・クラリティ表記ではなく、「premium」または「standard」といった記述的分類へ移行すると紹介し、LGDのコモディティ化を補強する材料として位置づけています。


第二に、天然ダイヤモンド側のマーケティング強化です。BriteCoは、Natural Diamond Council、De Beers、Antwerp World Diamond Centre、WFDBなどによる天然推進キャンペーンの活発化に言及し、天然が「希少性」「永続性」「社会的意味」を軸に再ポジショニングを進めていると見ています。これは、天然がLGDと同じ土俵で価格競争をするのではなく、意味と象徴性の領域で差別化を図る方向を示しています。


第三に、LGDが「日常使いの新しいジュエリークラス」になる可能性です。レポートでは、LGDは将来、従来の意味でのラグジュアリーとは少し異なる位置づけになるかもしれないが、だからといって単なるファッションジュエリーになるわけではないとしています。ブレスレット、ネックレス、ピアス、ペンダントなど、貴金属とLGDを組み合わせた「毎日気軽に身に着ける上質なジュエリー」という新たなカテゴリの成立を予測しています。


第四に、エンゲージメントリングでは天然回帰の兆しが出る可能性です。BriteCoは、価格差が広がり過ぎると、あまりに安価なLGDが「永続的な愛の象徴」として十分に感じられなくなる消費者が一定数出るかもしれないと論じています。そして実際、2024年末時点でエンゲージメントリング販売に占める天然の比率は52.6%だったものが、2025年の直近2四半期では57.3%まで戻したとしています。ただし同社自身も、これはまだ十分なデータ蓄積がない初期兆候にすぎず、明確なトレンドと断定するには早いと留保しています。ここは重要で、レポートは天然回帰を断言しているのではなく、あくまで可能性として示しているにとどまります。


第五に、ファンシーカラーLGDの成長です。天然では非常に希少で高価なピンク、ブルー、グリーン、オレンジ、さらにはレッドやパープル系まで、LGDでは比較的一貫して鮮やかな色をより低コストで生産できるため、今後の需要拡大余地が大きいとBriteCoは見ています。色の多様性と価格アクセスの両立は、天然では実現しにくいLGD独自の強みの一つです。


日本の企業が押さえるべきポイント


このレポートから、日本のLGD関連事業者が読み取るべき点はいくつかあります。まず、LGDの普及は単なる価格訴求だけでは長続きしないということです。米国でLGDが伸びた背景には価格優位が確かにありますが、実際の購買行動は「安さ」ではなく「予算内でより大きく、より美しく、より自分らしいものを選ぶ」方向に向かっています。したがって、販売現場では単に天然より安いと説明するだけでなく、サイズ、品質、デザイン自由度、着用シーンの広がりをどう提案するかが重要になります。


また、LGD市場が成熟するほど、商品差別化は難しくなります。レポートが示すように、コモディティ化が進めば、石そのものだけでプレミアムを維持するのは難しくなります。その場合、差別化の主戦場は、ブランド、デザイン、編集力、説明力、接客、保証、アフターケア、そしてストーリーへ移ります。LGDを扱う事業者ほど、「石を売る会社」から「価値体験を設計する会社」へ進化できるかが問われるでしょう。


さらに、天然とLGDはゼロサムで理解しないほうが実務的です。BriteCoのレポート自体が示しているのは、両者が完全にどちらかに収斂するのではなく、用途と意味で棲み分けていく可能性です。LGDは日常使い、ファッション性、大粒・高品質・カラーの自由度という領域で強く、天然は希少性、象徴性、資産観、伝統的な婚約指輪観と結びつきやすい。今後の市場では、どちらが“勝つか”より、どの需要にどちらを当てるかという編集能力のほうが重要になると考えられます。


まとめ


BriteCoの2025年レポートは、米国市場においてLGDがすでに十分に主流化し、価格・品質・デザイン・用途・小売収益構造まで含めて市場全体を書き換えていることを示しています。1カラットLGDが1,000ドル以下、天然が約4,200ドルという価格差、エンゲージメントリングにおけるLGD比率47.7%、非ブライダル用途の拡大、大粒化・高品質化、シェイプの多様化といったデータは、その変化の大きさを明確に物語っています。


同時に、このレポートは「LGDが拡大すると天然の意味も変わる」ことを示唆しています。市場は一方向に置き換わるのではなく、LGDの大衆化と天然の再高級化という二極化へ進む可能性があります。日本市場は米国より進行速度が遅いとしても、消費者心理、価格構造、売り場設計、ブランド戦略に関しては、すでに学ぶべき局面に入っていると言えるでしょう。重要なのは、LGDの伸長を単なる価格破壊として受け止めるのではなく、新しい需要創造と商品再設計の機会として捉えることです。そこに対応できる企業が、次の市場形成を主導していくはずです。

 
 
 

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