Plumb Clubのデータから見るダイヤモンド消費の民主化
- takuya-ito6
- 5月6日
- 読了時間: 4分

ラボグロウンダイヤモンドの普及は、ダイヤモンド市場にも大きな変化をもたらしています。
米国の業界団体であるPlumb Clubの最新調査では、アメリカの消費者の74%がラボグロウンダイヤモンドの婚約指輪に肯定的で、また83%がラボグロウンダイヤモンドのジュエリー全般に肯定的な見方を示していることが明らかになりました。これは一見、ラボグロウンダイヤモンドの市場浸透が順調に進んでいるように見えます。

しかし、この調査には興味深い矛盾があります。ラボグロウンダイヤモンドを積極的に選ぶと回答したのは全体の33%で、同品質のダイヤモンドであれば天然ダイヤモンドを選ぶと答えた人が49%に上っています。さらに、37%の消費者は「十分な情報がない」と回答しています。この「受容(肯定)」と「購買選好」の乖離は何を意味するのでしょうか?

様々なメディアの分析を参考に考えると、この結果は新興市場の苦闘と、テクノロジーの進歩による既存市場の価値観の再構築を同時に反映していると考えられます。「83%の受容」はラボグロウンダイヤモンドの市場参入の成功を示唆する一方で、天然ダイヤモンドの「永遠の輝き」という従来の価値観が揺らぎ始めていることも示しています。
一方、実際の購買となると、「永遠の誓い」の象徴としての天然ダイヤモンドは依然として根強い人気を誇っています。婚約指輪において天然ダイヤモンドを選ぶ49%の消費者は、テクノロジーの進化を前にしても揺るぎない信念を持っていると言えます。
Plumb Clubのマーケティングディレクターであるマイケル・オコナー氏はJCKのインタビューの中で、「消費者は天然ダイヤモンドが欲しいと言うが、実際にはより高品質で安価なラボグロウンダイヤモンドを購入する(They say they would love to have a natural diamond, but the reality is they can get better quality for their money with lab.)」と述べています。このオコナー氏のコメントからは、客観的な事実というよりも、消費者の潜在的な心理や信念を読み取るニュアンスが含まれています。つまり、価格に敏感な層は、言葉では天然ダイヤモンドを望むとしても、最終的には手頃な価格のラボグロウンダイヤモンドを選ぶ可能性が高いという示唆です。

しかし、価格重視の消費者だけで市場全体を語ることはできません。天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの市場争奪戦を単純な数字だけで解釈することは不可能です。それぞれの立場、視点によって解釈は大きく異なってきます。確かなのは、天然とラボグロウン、それぞれが独自の価値観を構築し、異なる消費層にアピールしているということです。
新興市場では様々な需要が混在し発展を遂げます。スマートフォンが登場したことにより、携帯電話に求められるものは通話やメールだけでなく、ゲーム、カメラ、音楽、スケジュール管理、チャットなど多様化しました。ダイヤモンド市場も同様の変化の途上にあります。ただ、その変化は「希少で神秘的な宝石」というイメージからの転換を伴うため、社会的な議論や注目度がより高まっています。
消費者が0.25カラットF VS2の天然ダイヤモンドとほぼ変わらない価格で1カラットD VS1のラボグロウンダイヤモンドを購入できるようになった現在、テクノロジーの進化はダイヤモンド消費の民主化を促進しています。この民主化は、今までダイヤモンドの購入に関心のなかった消費者グループをも巻き込む可能性があります。
この市場の転換期において、「受容」と「購買選好」の差はもはや重要ではありません。真に重要なのは、消費者が盲目的な崇拝から理性的な判断へと移行し、技術革新が旧来の市場概念を覆し、既存の勢力図を大きく変えつつあるという事実です。
Plamb Clubの調査データは米国の消費者グループを対象にしたもので、現時点での日本の消費者の傾向を反映しているとは言えません。この調査では、回答者の84%がラボグロウンダイヤモンドについて聞いたことがあると回答し、45%が「天然ダイヤモンドと組成と外観は同じだが、実験室で製造されたもの」という正しい定義を選択しています。

日本ではまだラボグロウンダイヤモンドに対する認知度が低く、またラボグロウンダイヤモンドの定義について正しく理解している消費者の割合も非常に低いため、「受容」と「購買選好」を議論するレベルに達していません。
しかし、ラボグロウンダイヤモンドの生産技術は現在でも着実に進化しており、生産が増えるにつれて日本市場へも確実に浸透しつつあり、それに伴って消費者認知も増加傾向にあります。ラボグロウンダイヤモンドがダイヤモンドを『民主化』していく環境の中、どのように自社のビジネスをポジショニングするかは非常に重大なテーマです。
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