
今週、ダイヤモンド業界に大きな意味を持つ二つのニュースが報じられました。
ひとつは、デビアスが『DiamondProof』という検査機器をアメリカの小売店で展開し始めたというものです。これは、小売業者が天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドを迅速に区別するのに役立つ最新の機材です。
もうひとつは、RJC(責任あるジュエリー協議会)が「ラボグロウンマテリアル基準(LGMS)」を発表する準備を進めているというものです。これにはラボグロウンダイヤモンド製品も含まれています。
これら二つのニュースがほぼ同時に現れたことが、伝統的な国際ダイヤモンド業界で「囲い込み運動」が起きていることを意味すると推測する人もいます。このような表現には多少誇張があるかもしれませんが、業界内に隠れた駆け引きが存在するのは否めない事実です。
まず、ニュースに含まれる一部の詳細について説明します。
DiamondProofについて
この装置は2024年6月のJCK展示会で初めて披露され、デビアスの公式プレスリリースで「偽陽性率0%」の製品と紹介されました。天然ダイヤモンド、ラボグロウンダイヤモンド、模造石を迅速に判断することができます。
「偽陽性率0%」と言われる理由は、内部にある「二重保険機構」にあります。99%のダイヤモンドはデビアスのSynthDetect技術で直接判断され、残りの1%はより精密な手段で検査され、ラボグロウンダイヤモンドが天然ダイヤモンドと誤判されないようにしています。
現在のDiamondProofの検査範囲は以下の通りです:
ジュエリーにセットされたダイヤモンド:0.25-3カラット
ルースダイヤモンド:0.001-10カラット
カラー範囲:カラーレスからニアカラーレス
「ラボグロウンマテリアル基準(LGMS)」LGMSについて
この基準は実は2021年に始まりました。当時RJCは草案を公表し、様々な企業に評価を依頼しました。
また2021年には多くの重要な出来事があり、その中の一つが「五大組織によるパンドラ包囲」です。ジュエリー企業であるパンドラが「天然ダイヤモンドの使用を停止し、ラボグロウンダイヤモンドのみを使用する」と公表したためです。五大組織とはRJCをはじめ、WDC、CIBJO、NDC、IDMAというジュエリー業界の国際的な組織を指します。問題はパンドラが「持続可能」に関する説明を提示したことであり、この概念は天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの間の論争の焦点でした。そのためこの五大組織は共同で声明を発表し、この表現に関するパンドラの声明を包囲しました。
過去の記録から、このLGMSという「基準」は元々2024年に発表される予定だったようですが、おそらく2023年にRJCのCEOであるイリス・ヴァン・デル・ヴェケンが(ウクライナロシア戦争の関係で)辞任したため、この基準の発表が今年にずれ込んだと思われます。
これら二つのニュースが持つ意味について考察します。
このニュースからは以下の二点を理解することができます。
1)技術面からラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドを区別する
2)業界基準面からラボグロウンダイヤモンドを定義する
この視点では、これらの点はラボグロウンダイヤモンドを貶める意図は含んでいません。冒頭で言及した「囲い込み」という言葉も、中立的な方法で理解することができます。
積極的な側面から言えば、二つの製品をはっきり区別することは市場の発展に役立ちます。特に、将来的に並行市場が形成されると信じる小売業者のグループにとって、技術面と基準面でのこの傾向は歓迎されるでしょう。
しかし、ある意味では、この「囲い込み」自体が伝統的なジュエリー業界としての権利を争うもの、あるいはやや強制的な「ルール作り」と言える可能性もあります。また、このルールを策定するグループにはラボグロウンダイヤモンドの業界組織がほとんど含まれていないことも問題を複雑にする可能性があります。そのため、RJCが制定した基準がラボグロウンダイヤモンド業界、特にグローバルなラボグロウンダイヤモンド業界に認められるかどうかは、未だ疑問が残ります。
日本のラボグロウンダイヤモンド業界は、状況が早いペースで変化する世界の業界において
国際的なイベント、特に産業標準と市場ルールに関わるイベントには注目を続ける必要があります。言い換えれば、日本のラボグロウンダイヤモンド業界で消費者信頼に値する基準を策定し、それを浸透させていく必要があります。そうでなければ、他業界に制定されたルールに縛られる可能性もあります。
業界の価値認識体系の再構築、日本のラボグロウンダイヤモンドジュエリーブランドの普及と国際競争力の向上に積極的な役割を果たすようになる必要があります。
未来のグローバルな競争は「天然VSラボグロウン」の二元対立を超え、より本質的な課題に転じていきます。技術と基準の解釈権を握るのは誰か、持続可能な尺度を定義するのは誰か、これがダイヤモンド業界の価値体系を再構築する鍵となります。
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