先月、今月と新聞やテレビニュースでラボグロウンダイヤモンド関連の話題が取り上げられました。多くは天然ダイヤモンド、ラボグロウンダイヤモンドの価格の低下に関連するものです。
10月16日には日本経済新聞(電子版)で「合成ダイヤ、8年で8割安『一生にひとつ』今は昔」と題する記事が掲載され、同様の内容の記事が翌日10月17日の日本経済新聞朝刊に掲載されました。
また10月22日にはテレビ東京、NIKKEI NEWS NXTにて「『永遠の輝き』ダイヤモンドが身近に?」とのテロップからラボグロウンダイヤモンドを紹介、ラボグロウンダイヤモンドの価格低下の背景と日本での展開に関して紹介されています。
11月5日には関西テレビ、newsランナーにて「金は高騰も天然ダイヤは下落“10年で3割減” 背景には『人工ダイヤの進化』」としてラボグロウンダイヤモンドが取り上げられています。
11月12日にはテレビ東京、日経モーニングプラスFTにて「ダイヤモンド市場に異変 人工が存在感」として天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの価格、そして市場について解説しています。
このどのメディアでも共通しているのは、天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの価格の低下についての指摘です。
天然ダイヤモンドに関しては市場の低迷、そしてラボグロウンダイヤモンドの価格低下と台頭による影響とされています。市場の低迷とラボグロウンダイヤモンドの台頭の影響は否定できませんが、長期的な目線で見れば天然ダイヤモンドの価格は「暴落」しているわけではないのがわかります。
天然ダイヤモンドの価格はパンデミック中の2022年4月頃にピークとなり、その後上がり過ぎた価格を修正するように下降しています。現在の価格は2020年4月頃、また2010年頃の水準までも下がっておらず、長期的に見ると天然ダイヤモンドの価格はまだ維持されているのが確認できます。
一方でラボグロウンダイヤモンドの価格はここ数年で大きく低下しており、メディアでは「1ctで1,000ドル前後の小売価格」として紹介されています。これはジュエリーではなくあくまでダイヤモンドルースの価格ですが、BlueNileやJames Allenなどのルースを扱う大手小売サイトの価格を見る限り事実のようです。
この価格の低下は主に、ラボグロウンダイヤモンドの技術の発展と普及、そして技術が普及したことによる低コスト地域への生産の集中、価格競争によるものです。現在ほとんどのラボグロウンダイヤモンドは中国とインドで生産されており、他国での生産に比べてコストメリットが大きい地域です(これらの国にはダイヤモンド加工インフラ、国による支援などのメリットもあります。また、生産の集中によるメリットもあります)。
事実、この影響で昨年、アメリカで生産していたWD Lab Grown Diamondsは破綻、デビアスは今年宝飾用のラボグロウンダイヤモンド生産の停止を発表しています。
また番組でも指摘されていますが、天然ダイヤモンドはカラットが大きくなるにつれて価格が指数関数的に上昇するのに対し、ラボグロウンダイヤモンドは比較的緩やかな曲線を描くため、大きいサイズのダイヤモンドの方が天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの価格差が大きくなるのもポイントです。特にプラチナやゴールドなどの貴金属を使用した「ジュエリー」に加工した場合、この価格差は特に大きいサイズほど顕著になります。
このラボグロウンダイヤモンドの価格の低下、そして天然ダイヤモンドとの価格差はどのような影響を業界、そして市場に与えるのでしょうか。
ひとつは、ラボグロウンダイヤモンドの価格が下がったことにより製品の自由度が広がるというメリットがあります。つまり、天然ダイヤモンドでは高価すぎてできなかったような遊びのあるジュエリーデザイン、使い方が考えられるようになり、ジュエリーデザインと楽しみ方の幅を広げる効果です。
もうひとつは、消費者層の拡大です。1ctのダイヤモンドは多くの女性にとって憧れの対象ですが、一方で1ctの天然ダイヤモンドジュエリーは100万円以上はするため実際に購入する気が起きない女性が多いのも事実です。しかしラボグロウンダイヤモンドであればルースで1,000ドル(15万円前後)、ジュエリーに加工しても20万円台で購入でき、突如現実味を帯びてきます。その為、今までジュエリーの購入を現実的に考えていなかった消費者がジュエリーを購入し始めることが期待されます。
また、一生にいちど、のような価格帯ではないため、最初はラウンド、次にペアシェイプ、または、最初は指輪、次にネックレス、のように楽しめる可能性もあります。
YouTubeのコメント欄を見ると様々な意見が見られますが、ラボグロウンダイヤモンドに対する肯定的な意見も多い一方、まだラボグロウンダイヤモンドが消費者に正しく認知されていないことも見て取れます。消費者に対する正しいマーケティングも今後のラボグロウンダイヤモンド業界の課題だと言えます。
いずれにしても、ここ最近でメディアでの露出が増えてきたことは世の中でラボグロウンダイヤモンドが注目されている証拠であり、今後市場がさらに拡大していく兆しと考えられます。
日経モーニングプラスFTではこのコーナーの最後に女性キャスターが「特集前までは私は天然、と思ってたが(今は)人工ダイヤの魅力も感じて迷っている」と述べ、また別の女性キャスターは「私は大きい人工ダイヤがいい」と発言するなど肯定的な印象でした。また
別の男性キャスターは婚約指輪に関して「人工ダイヤを選んで、その(天然との)差額で海外旅行に行くという発想もありかな」とコメントしています。
このようにラボグロウンダイヤモンドがメディアで取り上げられるのは消費者の関心を引くきっかけになり、今後の市場へ期待されます。
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